(This is a Japanese translation of Margin for Non-Cleared Derivatives).
- 非クリアリングについての当初証拠金(IM)に係るルール(UMR)がスタートして1年経過した。
- ISDAマージン・サーベイ2017は、IMについて差入れ・差出し額のスナップショットを公表している。
- 上記は2017年3月31日時点で、いわゆるフェーズ1対象金融機関の間でのやりとりで、それぞれ、472億米ドル(ドル)、466億ドルとなっている。
- そこで、上記数値と2012年に予想した8,000億ドルとの見積もりとを比較検討する。
- つまり何が数値を増減させる要因となっているのか
- また、2020年9月までにUMR トレードが8,000億ドルになるとは考えにくいのか
- それらの1つの理由に、デリバティブ商品のクリアリングがあるのか
はじめに
2016年9月に“How Large will Initial Margin be for Uncleared Swaps?”という題で記事を書いた。そこには2012年11月に内部モデルを使ったISDAの見積りがあり、金額は8,000億ドルとなっている。
そこで上記数値と以下を比較する;
すなわち、CCPが保有するクリアーされた金利スワップとCDS(1,450億ドル)の合計額について、マージン・ピリオド・オブ・リスク(MPOR)を5日から10日に変換することで得られる2,050億ドル。
そして、上場デリバティブのIMとして保有される2,000億ドルについて、MPORを2日から10日に変換することで得られる4,500億ドル。
上記を合計すると6,500億ドルとなり、8,000億ドルには近づいてきた。
しかしここでいくつか注意点がある。上場デリバティブが含まれているか、また、マルティラテラル・ネッティングはバイラテラル・ネッティングに比べてネッティング効果が非常に大きいといったことが、エラーを起こしやすくしている点だ。
1年経った今、実際の数値を持っているだろうか?その答えはYesだ。
ISDAマージン・サーベイ2017
今週ISDAはアニュアル・マージン・サーベイ(ここから入手可能です)を公表した。そこではじめて新しいUMRで要求されているIMについて言及している。
2017年3月末時点の、フェーズ1対象金融機関である大手20デリバティブ・ファームは;
- 規制IMの差入れ額が472億ドル
- 規制IMの受入れ額が466億ドル
- 合計940億ドル
上記は大きな数値だが、まだ8,000億ドルには遠い。
ただし、上記数値は、2016年9月1日に始まった新しいトレードに関するもので、しかも2017年3月末時点の数値であるため、半年分のトレードしか含まれていない。もしこれが2017年9月時点のものであれば、数値は大きく異なるだろう。
2倍?
- おそらく、テナーの長いトレード、例えば10年ものなどは、UMR下のトレードとしてリプレイスされることはないだろう。
- おそらく、FX オプションやNDFなどの6ヵ月に満たない短期のトレードが抜け落ちることもないだろう。
そこでざっくりと、1.5倍としてみよう。つまり1.5×940億円=1,410億円だ。
ISDAマージン・サーベイは他にも有益は数値を公表している。(規制ではない)任意のIM、すなわち、フェーズ1対象金融機関とUMR対象外金融機関とのトレードに係るIMの金額だ。
- 任意のIMの差入れ額が163億ドル
- 任意のIMの受入れ額が605億ドル
- 合計768億ドル
差入れと受入れが非対称となっているのは、フェーズ1対象金融機関がより多くの1-ウェイの担保契約を結んでいるからだろう。
仮にUMR対象金融機関の契約が2-ウェイに移行して、IMのモデルが規制に適合しているISDA SIMMなどのモデルを採用した場合、上記合計金額は、受入れ額の2倍、すなわち605億ドル×2=1,210億ドルが適当だろう。
ここで、IM額は1,410億ドルと1,210億ドルを足して2,620億ドルとなったが、まだ8,000億ドルには遠い。
他には何が考えられるだろう
明らかにより多くの金融機関がUMRの対象となる、すなわち、2017円9月のフェーズ2、2018年9月のフェーズ3、2019年9月のフェーズ4、そして80億ドル以上のデリバティブ残高を保有する全ての金融機関が対象となる2020年と、対象の枠は広がっていく。
このため規制IMの額は大きく増えるだろう。
特にバイラテラルのアグリーメントが増加することが、数値の総額の増加に寄与するだろう。
これに反対の動きは、一部のバイラテラル商品のクリアリング化だろう。
明らかなのは、LCHでクリアーされる外国為替NDFとインフレ・スワップだ。これは、こちらとこちらで触れているので参考にしていただきたい。一方で次のプロダクトとなると、LCH、CME双方が2017年末までに立上げようとしているFXオプションということになるだろう。
そうすると、8,000億ドルも現実味が出てくる。時間の問題だ。
クリアーされる商品の増加ペースが変化すると、2020年までにその数値を見ることができないかもしれないが。
その他のISDAマージン・サーベイの数値
ISDAマージン・サーベイ2017にはたくさんの興味深いグラフや数値が載っている。フル・テキストをお読みになることをお勧めするが、特に興味深かったものを以下にコピーしておこう。
IMに関する集中と支配:18社の報告機関の中のトップ5社について
IMの担保として国債が利用される割合
ちなみに、ISDAのドキュメントに記載されている理由は、“IMを規定しているマージン規制は倒産隔離のためのものだが、それは証券を活用することによってより容易になる”とある。
変動証拠金(VM)に関する数値
マージン・サーベイはVMについても多くの情報を提供している。
例えば2017年3月末日時点で、フェーズ1対象金融機関が差入れたVMは合計6,850億ドル、受入れたVMは8,704億ドル。
私にはこの数字がどのようにつくられたのか解らない。
ここで差入れたVMすなわち各金融機関の毎日のVMの総合計、他の金融機関に対してマイナスすなわち差入れるべき金額は、2006年9月から2017年3月までの6カ月間の毎営業日の合計額ということで良いのだろうか?
あるいは何か他の定義があるのか。
もし前者であれば、これは金融機関間のマージン・フローのサイズについてのいくつかの示唆を与える一方で、それはキャッシュや証券に対するタイムリーな需要額ではないか、あるいは、日々のVM要件を満たすために、企業がアクセスする必要がある担保額のインディケーションだ。
ISDAサーベイは、20の大手市場参加者によってポストされた担保の金額を測定する目的でこれらのVMとIMの数値を足し合わせているが、それらは、ある特定の時点に適時にポストされた実際の担保を測定したものではないため、混乱が認められる。従って個人的には私はそれらを足し合わせることを良しとしない意見だ。
恐らく私は何か誤解しているのだろう。
何が正しいのかは、読者にお任せする。
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